共同経営とは、複数の経営者(役員)が対等な立場で共同し経営する形態のことである。共同経営と聞くと、相互に専門知識や技術、人間関係等の強みを生かすことで、事業展開や拡大等の相乗効果が期待できるため、しばしば見られる経営形態です。

しかし、残念なことに共同経営は多くの場合、経営方針の相違、お互いの環境の変化等により、長くは続かず分裂します。今回は、共同経営を解消する際に生ずる会社法上のリスクについて解説します。

中小企業の場合、取締役の任期は基本的に1年~10年の間で定めることができます。もっとも取締役は登記事項であるため、任期が更新される度に登記をしなければなりません。言い換えると、登記の度に登録免許税をはじめとする諸費用がかかります。そのため、多くの場合、取締役の任期を定款で「10年」と定めることが多いのです。

さて、共同経営を解消する場合、退任する取締役から辞任届が得られれば良いのですが、そうでない場合、過半数の株式(議決権)を有する取締役が、対立する側の取締役を解任することになります。※取締役は、任期中いつでも、株主総会の普通決議により解任することができます。(会社法339条1項)ここで注意しなければならないことが、任期中に解任された取締役は、解任に『正当な理由がある場合を除き』、会社に対して損害の賠償を請求することができるということです。(会社法339条2項)上述の通り、取締役の任期を定款で「10年」としている場合、任期途中で解任された取締役は残存任期分の役員報酬を請求することが可能なのです。

残存任期をそのまま当てはめて計算すると、相当額の賠償額となるが、実務上は、概ね「報酬額×2年分」で決着するケースが多いように思われます。

そして、『正当な理由』としては、病気で職務を続けられないこと等です。(判例・最判昭和57.1.21)法令違反の職務執行をしたこと等が挙げられるが、他の取締役、経営陣との折り合いが合わなくなったというだけでは、正当な理由は認められにくいのです。(判例・東京地判昭和57.12.23)

重要な視点は、この『正当な理由』は、一般的になかなか認められないという点です。

そして、解任する取締役が、株主でもある場合には、株式の回収も検討する必要があるため、株の買取金額を巡り、紛争が更に発展する恐れもあります。

また、当該取締役が使用人を兼ねる取締役(使用人兼務取締役)である場合、使用人(従業員)としての地位を併有するため、使用人としての雇用関係を解消する必要が出てきます。

しかし、雇用関係においては、労基法が適用されるため、任意に退職に応じてもらえない場合、解雇を検討せざるを得えません。

労働基準法上、解雇は非常にハードルが高く、使用人兼取締役との関係解消は、多大な時間と費用、労力がかかります。

このように、取締役の解任を巡っては、経営に与える影響(取引先やノウハウ等)の流出のリスクに留まらず、残存任期の報酬の支払い、株式買取を巡る紛争、これらの伴う弁護士費用等、財務毀損インパクトは極めて大きいのです。

保険営業マンが、過去に共同経営の経験のある経営者、あるいは現に共同経営をしている経営者ち話をする際、是非、今回解説した視点を持って話をしてみてください。